2023年7月にストックオプションに対する課税(Q&A)が開示されたことによって、1円ストックオプションの発行が実務上可能になりました。
下記に1円ストックオプションを発行する際の主な留意事項をまとめましたので参考にどうぞ。
※内容は都度アップデートしてまいります。
なお、実際の検討を行う際は、各専門家にご相談の上でご検討ください。
詳細のご相談がございましたら、お問い合わせフォームからご連絡ください。
ストックオプションの権利行使価額
ストックオプションの権利行使価額とは、ストックオプションを行使した際に支払うべき金額を言います。
例えば、ストックオプション1個に対して、1株が付与される場合において、権利行使価額が100円の場合、「100円で1株を購入する権利」と表現できます。
税法上の適格要件を満たすためには、ストックオプションの権利行使価額は「新株予約権の行使に係る1株当たりの権利行使価額は、当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社の株式の当該契約の締結の時における1株当たりの価額に相当する金額以上であること」とされていますが、従来、1株当たりの価額に相当する金額の明確な計算ルールが示されていませんでした。
その中、ストックオプションに対する課税(Q&A)によって、財産評価基本通達によって評価された金額(税務上の時価。即ち、純資産方式、配当還元方式などで評価した金額)を1株当たりの価額とするということが示されました。(一般的にセーフハーバールールと呼ばれます)
従って、純資産(≒資産-負債)がマイナスの状況であれば、1株当たりの価額は1円となるため、権利行使価額を1円としてストックオプションを発行することも実務上可能になったと言えます。
権利行使価額を1円とするストックオプションを発行すると費用が発生する
会計基準上、権利行使価額とその時の株式の時価の差額を費用として処理することが必要となります。
例えば、株価100、権利行使価額1とした場合、99の費用(株式報酬費用)が計上されるため、99だけ利益が少なくなることになります。
権利行使価額を1円にする際、様々な利害対立が発生しうる
1円ストックオプションを受け取る人は幸せ
ストックオプションを付与される人は1円で株を買うことができる権利をもらえるので、インセンティブを最大限享受できるため、最もHappyな人です。特段、デメリットはないと思います。受け取れる人は積極的に受け取りましょう。
一方で、経営者から見ると、上場後、権利行使&売却をしてしまうと、インセンティブは失われてしまいます。従って、インセンティブを保ち続けるような施策を継続的に検討する必要があると考えられます。
vs既にストックオプション(権利行使価額が1円超)を受け取っている人
ストックオプションを既に受け取っている人はストックオプション発行時以前の従業員等であることが想定されますが、権利行使価額がセーフハーバールールで算定した株価ではなく、高い株価(1円超)が設定されていることが想定されます。
従って、後から入った従業員のほうが良い条件でストックオプションを受け取るということになるため、ストックオプションを新規で受け取る人との利害の対立が生じうる可能性があります。
vs投資家等の株主
ストックオプションを行使し、株式を新たに発行する場合、(時価総額が変化しない前提として)1株当たりの株価は低くなります。そのため、投資家などは投資契約等において、ストックオプションを自由に発行してもよい枠(ストックオプションプール)を設定することが良くあります。
ただし、この課題は、権利行使価額が1円であろうとなかろうと発生します。他方、権利行使価額が1円の場合、1株当たりの株価が下がるのみならず、権利行使によって会社に流入する金額が1円となってしまうため、資金の流入が期待できないという課題も顕在化します。
従って、投資家等の株主からすると、会社の価値を損ねるのではないか。自社が投資した株価は適切であったのか。という形で利害の対立が生じうる可能性があります。従って、権利行使価額を1円としてストックオプションを発行する場合には、その目的等の背景を投資家にも理解してもらったうえで進めることが重要であると考えられます。