個人的な所感ですが、グロース市場の上場維持基準の影響について、考えをまとめてみました。
東京証券取引所の開示している資料のおさらい
SNSでも活発に議論されている、グロース市場の上場維持基準の変更が検討がなされている件をまとめます。
元の資料は以下をご参照ください。(2025年4月22日)
https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/index.html
上場維持基準(時価総額基準)が引き上げられる見込み
現行、グロース市場で上場維持するための基準の一つに上場10年経過後から、時価総額40億円以上という基準がありますが、昨今のスモールIPO後に成長しない企業がグロース市場にとどまり続けている状況を鑑み、上場5年経過後から、時価総額100億円以上へと引き上げられる見通しとなっています。

上場維持基準(時価総額基準)を満たせない企業はスタンダード市場or上場廃止
スタンダード市場への市場変更基準に利益額基準(1億円/年以上)がありますが、時価総額が40億円を超えるグロース市場上場企業がスタンダード市場への変更を希望する場合には、利益額基準は考慮しないとされています。

新規上場時の時価総額が100億円以上を求められるわけではない
一方で、新規上場の場合は、将来的に時価総額100億円以上となることを示すことができればよいため、上場時点では必ず市も100億円である必要はないとのことです。

グロース市場上場企業のM&Aが増えるのか
上場維持基準を満たせないグロース市場上場企業にとっては、以下の点からM&Aは一つの有力なExit手段となり得ると思います。
- 近年、非上場スタートアップのバリュエーションが高騰してきた経緯もあり、買手にとって、類似の非上場スタートアップを買収するよりも安く取引ができる可能性がある
- 現に上場しているため、財務数値等が毎年公表されているため、事前の検討がしやすい
- また、子会社化した時の内部統制も一定程度の水準にあることが担保されており、管理コストも抑えられる可能性がある
また、オーナーが株式の多くを保有している場合、上場を維持していくための管理コスト(監査報酬、会計基準に準拠するためのコンサルフィー等)を抑えられる点、多数の投資家対応をしなくて済む点から、MBOを行うケースも増える気はします。
なお、証券会社が時価総額の低いTOB(株式公開買付)をやるのか?という意見もありますが、実例もあるので、引き受ける証券会社はあるのだと思います。
グロース市場上場企業の実例(M&A TBS-WACUL)
直近、40億円程度でTOBが行われた事例があります。
買手:TBSホールディングス(放送業)
売手:WACUL(デジタルマーケティング)グロース市場上場
買付総額:40億円程度

M&Aオンラインより
スタンダード市場上場企業の実例(MBO Mint-浜井産業)
グロース市場上場企業ではありませんが、スタンダード市場で株価が低位であるオーナー系企業によるMBOも増加している印象です。
買手:Mint(浜井産業オーナーの資産管理会社)
売手:浜井産業(工作機器メーカー) スタンダード市場
買付総額:36億円程度

M&Aオンラインより
非上場スタートアップのM&Aが増えるのか
「本改正を受けて」非上場スタートアップのM&Aが増えるとは思いません。なぜならば、
- 通常、非上場スタートアップはVCからエクイティで調達する際、優先株式を発行しており、一般的には1倍・参加型のみなし清算条項が付されているが、その場合、低いValuationでM&Aをする場合、オーナーが経済的便益を得られないため、仮に有用なM&Aディールであったとしても実行に積極的にならない
- 複数回のラウンドを重ねている場合、アーリーフェーズに投資した投資家も経済的便益を受けることができないため、株主総会の特別決議を行うことができない
という可能性があるからです。
即ち、低バリュエーションでのM&Aは成立しにくいため、非上場会社のスタートアップのM&Aが即座に増加するかは疑問があります。
一方で、従来、Exit=IPOとなっていましたが、Deeptechのスタートアップ等は単一企業として成長するよりも、他の企業と融合することで成長すると考えていますので、これからはM&AによるExitを想定する企業も増えるのではないかと思います。
セカンダリーマーケットの拡大
セカンダリー(VCが持っている株式を他のVCや事業会社に譲渡する取引)はM&Aの一つの形態ではありますが、多くのVCのファンド期限が近付いている昨今、他のVC・事業会社に譲渡する動きはここ数年で活発化していくことが予想されます。
イケてる会社は個別に高値で取引される一方で、イケてない会社はファンド期限に一括バルクセールとしてばらまかれるんじゃないかなぁ。と個人的に感じています。