PEファンドによる買収事例研究

そもそもが、カーライルやベインキャピタル等の外資ファンドが日本企業への投資に積極的になっているというのもありますが、カオナビのTOBように、今後、PEファンドによる上場企業に対するTOBは増えると感じています。

なお、公開情報を中心に確認しておりますが、数値等の正確性は保証できませんので、参考程度とご利用ください。

目次

グロース企業の買収

従来、PEファンドは、大企業のノンコア事業のカーブアウト案件、経営の継ぎ手がいない事業承継案件、債務超過で抜本的な改革が必要な事業再生案件が中心で、グロース企業への投資のイメージはありませんでしたが、近年はファンドスポンサードMBO(マネジメントバイアウト)が流行っていることもあり、投資領域がグロース市場に上場している企業にも広がってきている印象があります。

ただ、いずれの企業もグロース企業としては比較的大きいこと、自社でキャッシュフローの創出ができていることから、本質的には、PEファンドの一般的な買収案件と相違ないのではないかと思いました。

PEファンドによるグロース上場企業の買収事例(2021年~)

企業名開示時期買付総額買付ファンド
イグニス2021年3月209億円ベインキャピタル
トライステージ2022年4月94億円ベインキャピタル
ユーザベース2022年11月536億円カーライル
インパクトホールディングス2023年1月216億円ベインキャピタル
カオナビ2025年2月500億円カーライル

M&Aオンライン(https://maonline.jp/)などを利用して検索しました。

日本プライベートエクイティ協会でPE投資の状況の概観がまとめられているので合わせてご参照ください。

PE投資後の基本戦略

一般論として、PE投資後は①「経営管理能力向上にともなう自助的なコストダウンや売上増加」②「不採算事業からの撤退」③「シナジーがある事業の買収」等によって企業価値を向上させます。

また、PEファンドは買収に当たって、事業計画を立てています。そして、買収後は計画数値の履行状況を確認することになるため、PEよる財務数値(営業利益の進捗、投資実行のKPI達成状況など)のモニタリングが強化されることになります。

投資期間はおよそ3-5年程度であることが多いと思います。

Exit戦略としては、事業会社に譲渡、IPO、ファンドへのセカンダリー譲渡のいずれかの戦略となっています。

以下に具体的なPEファンドによる買収事例に関する情報と顛末をまとめておきます。

ニチイ学館の例(事業会社へ売却)

ニチイ学館が創業者とともにMBOした事例です。

報道によれば相続税の納税資金を捻出する目的でMBOをした。とも言われており、MBO後も(比率は不明ですが)創業者の親族が一定程度の株式を保有していたことになります。

Deal概略

取得ファンド:ベインキャピタル
投資実行時期:2020年8月
買収金額:約1,000億円
プレスリリース:https://www.nichiigakkan.co.jp/topics/assets/d0cbbd7781eb0465e04b32936d0186d7c891eb13.pdf
投資実行時の売上高:3,000億円程度
投資実行時の営業利益:150億円程度
投資実行時のタームローン:986億円(三菱UFJ、みずほ、三井住友、野村キャピタルインベストメント)

ロールアップ等

ニチイ学館の事例では積極的なM&Aと不採算事業の撤退を行っています。

2021年7月:西日本ヘルスケアを買収
2022年3月:プラティアを買収
2022年7月:グルーミング事業をイオンペットに譲渡
2022年7月:子会社のGABA(英会話事業)をNOVAホールディングスに譲渡
2022年9月:ティーアンドシー、同社傘下ポプラコーポレーション、ポプラ訪問看護ステーションを買収
2022年10月:いっしんグループホームの一部事業(老人ホーム事業施設)を譲受
2023年3月:ニチイケアネット(福祉器具レンタル事業)をワキタに譲渡
2023年5月:松本の一部事業(老人ホーム事業施設)を譲受
2023年7月:辛卯の一部事業(老人ホーム事業施設)を譲受
2023年10月:ピアースの一部事業(老人ホーム事業施設)を譲受
2024年3月:子会社のレイクウッズガーデンをニチイ学館元副社長に譲渡

Exit

Exit時期:2024年3月(保有期間 3年10か月程度)
Exit方法:事業会社(日本生命相互会社)へ譲渡
買収金額:2,100億円

アリナミン製薬の例(他のファンドへ再度売却)

武田薬品工業のコンシューマビジネスのカーブアウト事例です。

近年、上場会社のノンコア事業の切り離しを目的としたカーブアウトが増加傾向にあります。(日立金属(現 プロテリアル)、日立化成(現 レゾナック)・日立工機(工機HD)など。カーブアウト先企業でもさらにシナジーや不採算事業の観点からカーブアウトがされることが多いです。現に日立化成を買収した事業会社のレゾナックも一部事業の売却をしています。)

Deal概略

取得ファンド:ブラックストーン
投資実行時期:2021年3月
買収金額:不明
プレスリリース:https://www.takeda.com/jp/newsroom/newsreleases/2020/20200824-8193/
投資実行時の売上高:600億円程度
投資実行時の営業利益:120億円程度

ロールアップ等

2022年11月:悠香ホールディングスを買収
2024年7月:日本製薬(武田薬品工業の子会社)を買収

Exit

Exit時期:2024年7月(保有期間 3年4か月程度)
Exit方法:他のPEファンド(MBKパートナーズ)へ譲渡
買収金額:不明

東芝メモリ(現 キオクシアHD)の例(再上場)

東芝の子会社である東芝メモリ(現 キオクシアHD)のカーブアウト事例です。

本件はベインキャピタルの単独投資ではなく、コンソーシアム型式で投資が実行されています。また、メモリの国策事業という性質から、日系企業以外の出資比率を50%以下に抑える配慮がなされており、政治的な色合いの強いDealと思います。

なお、他の再上場事例としては、リガク、黒田グループ(旧黒田電気)、雪国まいたけ、ベルシステム24、FOOD & LIFE COMPANIES(旧あきんどスシロー)、すかいらーくなどがあります。

Deal概略

取得ファンド:Pangea(ベインキャピタル、東芝、HOYA、SK Hynix、Appleなど)
投資実行時期:2018年6月
買収金額:2兆円程度
プレスリリース:https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/migration/corp/irAssets/about/ir/jp/news/20180601_1.pdf
投資実行時の売上高:1兆200億円程度
投資実行時の営業利益:6,200億円程度

ロールアップ等

目立ったロールアップは行っておりませんが、2019年10月に北上工場を竣工、四日市工場を継続的に拡大させるなど、自社の設備投資を推し進めていたようです。

2020年7月:子会社であるSolid State Storage Technology Corporationとその関係会社の全株式を取得

Exit

Exit時期:2024年12月(保有期間 6年6か月程度)
Exit方法:東証プライム市場に上場
上場時時価総額:7,800億円

スノーピークの例(投資中)

スノーピークが創業者とともにMBOした事例です。
本件もMBOですが、ニチイ学館とは異なり、MBO後も創業者が45%の持ち分を保有しています。

Deal概略

取得ファンド:ベインキャピタル
投資実行時期:2024年4月
買収金額:約340億円
プレスリリース:https://ir.snowpeak.co.jp/news/files/140120240220540135.pdf
投資実行時の売上高:257億円程度
投資実行時の営業利益:9億円程度

ロールアップ等

2024年9月:Swift Fly Fishing Company(NZ)を買収

今後想定される展開

創業者である山井氏の一族などが継続して株式の45%を保有しているため、ニチイ学館のような他社譲渡によるExitを行うのではなく、再上場、若しくは山井氏への売却等によるExitの可能性が高いと考えられます。

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